実家管理費控除は空き家を増やすのか?空き家ビジネス参入者が知るべき本当の論点
「実家管理費控除」と聞くと、空き家を持ち続ける人を支援する制度ではないかと感じる方もいるかもしれません。
たしかに、管理費を控除するという言葉だけを見ると、空き家の固定化を後押しするように見えますよね。
しかし、本質は逆なんです。
重要なのは、空き家そのものを増やすことではなく、誰にも見られず、管理されないまま傷んでいく家を減らすことです。
これは、空き家ビジネスに参入する事業者にとっても大きな示唆があります。
これからの市場は、相続後の空き家だけでなく、介護中・施設入所中・相続前の「実家管理」に広がっていく可能性があるからです。
実家管理費控除とは何を目指す考え方なのか
「実家管理費控除」は、まだ正式な制度として決まっているものではありません。
空き家管理士協会として提案している、空き家の放置を未然に防ぐための政策アイデアです。
想定しているのは、すでに完全に放棄された空き家ではありません。
たとえば、親が施設に入った。
子どもは遠方に住んでいる。
実家には誰も住んでいないが、相続はまだ始まっていない。
売却するか、活用するか、解体するか、家族の話し合いもまだ終わっていない。
こうした家は、いわゆる空き家に近い状態です。
しかし家族の感覚としては、まだ「親の家」であり、「手放す」と決めた家ではありません。
実家管理費控除が対象として考えているのは、このような移行期の実家です。
誤解されやすいポイントは「管理=維持推奨」に見えること
この考え方に対して、よくある疑問があります。
「管理費を支援すると、空き家を持ち続ける人が増えるのではないか」
「売却や解体を遅らせることにならないか」
「個人の家を公的に支えるのはおかしいのではないか」
いずれも自然な疑問です。
だからこそ、制度設計には注意が必要です。
ただし、空き家問題の本質は「家が存在すること」そのものではありません。
問題は、誰にも見られず、管理されず、地域に影響を与える状態になることです。
草が伸びる。
郵便物がたまる。
雨戸が閉まりっぱなしになる。
通風や通水が止まる。
外から見て「誰も管理していない家」に見える。
この状態になると、建物の劣化だけでなく、防犯、景観、近隣トラブル、行政対応の負担にもつながります。
つまり、早い段階で最低限の管理を入れることは、所有者だけでなく、地域全体にとって意味のある対策になります。
空き家ビジネスの市場は「相続後」だけではない
空き家ビジネスというと、すでに空き家になった物件を対象にするイメージがあります。
しかし現場では、問題は相続後に突然始まるわけではありません。
親が施設に入った日、長期入院した日、遠方の子どもが実家を見に行けなくなった日から、静かに始まっています。
この段階では、所有者や家族にまだ明確な意思決定がありません。
売るべきか。
貸すべきか。
残すべきか。
解体すべきか。
家財をどうするか。
相続人同士でどう話し合うか。
この判断には時間がかかります。
その時間のあいだに管理が止まると、家は一気に傷みます。
結果として、売却も活用も難しくなり、選択肢が狭まってしまいます。
ここに、空き家管理士の新しい役割があります。
単なる巡回サービスではなく、「家族が次の判断をするまで、建物の状態を保つ仕事」です。
管理はゴールではなく、次の判断につなげる入口
実家管理費控除の考え方で重要なのは、管理をゴールにしないことです。
管理費を支援するだけで終われば、「空き家のまま置いておけばよい」という誤ったメッセージになりかねません。
そうならないためには、管理と相談支援をセットにする必要があります。
たとえば、次のような設計が考えられます。
対象期間を一定期間に限定する。
施設入所後や相続前など、対象となる時期を明確にする。
草刈り、通風、通水、郵便物確認、防犯確認など、管理内容を見える化する。
売却、活用、解体、承継、相続整理などの相談導線とつなげる。
このように、管理は「放置させないための入口」であり、「次の判断につなげるための準備」です。
空き家ビジネス参入者にとっては、この視点が非常に重要です。
これから求められるのは、単に作業を請け負うだけの事業者ではなく、所有者や家族の不安を受け止め、適切な専門家やサービスにつなぐ地域のハブとしての役割です。
異業種参入との相性が高い理由
実家管理の領域は、さまざまな業種と相性があります。
不動産業であれば、将来の売却・賃貸・活用相談につながります。
建設業や工務店であれば、小修繕や劣化確認との親和性があります。
造園業であれば、草刈りや庭木管理が入口になります。
警備業であれば、防犯確認や見守りサービスとの連携が可能です。
介護関連事業者であれば、施設入所後の家族支援として実家管理を提案しやすい立場にあります。
また、士業にとっても、相続、登記、遺言、後見、財産管理などの相談につながる可能性があります。
つまり、実家管理は単独の作業サービスではなく、複数の専門領域をつなぐビジネスになり得ます。
ただし、参入する際には注意も必要です。
空き家管理は、所有者の財産や家族の事情に関わる仕事です。
安易な営業や不安を煽る提案ではなく、信頼、記録、説明責任、地域との関係づくりが欠かせません。
空き家管理士協会が提供できる価値
空き家管理士協会では、空き家管理に関わる知識、現場対応、所有者対応、制度理解、地域連携の考え方を体系的に学べる環境づくりを進めています。
空き家管理は、草刈りや巡回だけで成り立つ仕事ではありません。
どの状態を管理不全の兆候と見るのか。
所有者にどう報告するのか。
近隣からの相談にどう向き合うのか。
売却、活用、解体、相続などの専門領域へどうつなぐのか。
行政や地域団体とどう連携するのか。
こうした判断力が、これからの空き家ビジネスでは重要になります。
実家管理費控除のような考え方が広がれば、空き家管理は「相続後の困りごと対応」から、「相続前・介護中から始まる予防型サービス」へと広がっていく可能性があります。
そのとき、地域に信頼される空き家管理の担い手がどれだけ存在するかが、空き家問題の未来を左右します。
空き家ビジネスの本丸は「放置前」にある
実家管理費控除は、空き家を増やすための考え方ではありません。むしろ、放置される家を減らすための考え方です。
空き家問題は、相続の日に突然始まるわけではありません。
親が家を離れた日、家族が遠方で管理できなくなった日から、少しずつ始まっています。
だからこそ、空き家ビジネスの可能性は、すでに荒れてしまった空き家だけにあるのではありません。
まだ判断がついていない実家。
施設入所後に誰も住まなくなった家。
遠方家族が気にしているが、手をつけられていない家。
こうした放置前の段階に、これからの市場があります。
管理はゴールではありません。
家族が次の判断をするための時間を整える仕事です。
そして、その役割を地域で担える事業者こそ、これからの空き家ビジネスで求められる存在になるはずです。
この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの「空き家ビジネスnote」でも解説しています。
















