相続登記の義務化で空き家ビジネスはどう変わるのか。事業者が今すべき3つの準備
空き家問題というと、老朽化した建物や伸び放題の草木をイメージする方が多いと思います。
でも現場で相談を受けていると、建物の状態よりも先に「そもそも誰の家なのかが分からない」という壁にぶつかることが少なくありません。
相続登記が義務化(2024年4月〜)され、住所等変更登記の義務化も2026年4月からスタートしました。
この2つの制度変化は、単なる登記手続きの話ではありません。
「所有者に連絡できない空き家」が減り、管理・活用・取引の相談が動きやすくなる。つまり、空き家ビジネスに関わる事業者にとって、新しい相談需要が生まれる転換点です。
空き家問題の「もう一つの原因」を知っていますか
空き家問題といえば、老朽化や景観悪化をイメージする方が多いかもしれません。
でも現場では、建物の状態よりも先に「誰の家か分からない」という問題にぶつかるケースが多くあります。
近隣から苦情が来た。
行政が動こうとした。
でも登記簿を確認したら、所有者はすでに亡くなっており、相続人も分からない。
連絡先として記載されている住所は、何十年も前のもの…。
こうしたケースは結構多いんです
「草が伸びている」という問題は、「誰に連絡すればよいか分からない」という問題と表裏一体なのです。
そこに国が本格的にメスを入れ始めたのが、相続登記の義務化と住所等変更登記の義務化です。
2つの登記義務化、何がどう変わったのか
相続登記の義務化(2024年4月〜)
相続登記とは、亡くなった方の名義になっている不動産を、相続した方の名義に変更する手続きです。
「家の持ち主が変わったら、公式な記録も変えておいてください」という手続き、と考えるとイメージしやすいと思います。
2024年4月1日から義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から原則3年以内に登記が必要です。
正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
重要なのは、義務化前に発生した相続も対象になるという点です。
祖父母や親名義のままになっている不動産も、2027年3月31日までの猶予期間内に対応が必要になります。
「ずっと放置してきたけど困っていなかった」という方も、今後は動かざるを得ない状況になってきます。
相続人申告登記とは。すぐに動けない人のための応急処置
相続人同士の話し合いがすぐにまとまらないケースも当然あります。
そのために設けられているのが「相続人申告登記」です。
「自分はこの不動産の相続人です」と法務局に申し出ることで、ひとまず義務違反を回避できる仕組みです。
ただし、これはあくまで応急処置。誰が最終的に所有するかを確定させる登記ではないため、「義務は果たした」にはなりますが、「問題が解決した」わけではありません。
この違いを相談者に丁寧に伝えられる事業者は、信頼を得やすくなります。
住所等変更登記の義務化(2026年4月〜)
もう一つの制度が、住所等変更登記の義務化です。
引越しや結婚による氏名変更、法人の所在地変更などで登記上の情報が変わった場合、変更から2年以内に登記への反映が必要になります(正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象となる可能性があります)。
相続登記が「亡くなった方の名義を放置しない制度」だとすれば、こちらは「生きている所有者の連絡先を古いままにしない制度」です。日本全国に「引越したけど登記は変えていない」という方は膨大にいます。
制度施行を機に動き始める方が増えれば、事業者にとって新しい相談需要として現れてくるはずです。
この制度変化で、空き家市場はどう変わるのか
2つの義務化を並べると、国が目指しているものが見えてきます。
「不動産の所有者情報を現実に合わせる」それだけです。
でも、それが実現されることで、空き家ビジネスの環境は大きく変わります。
相談の入り口が増える
相続登記の対応を始めた家族が「そういえば実家の管理もどうしようか」と動き始めるケースが増えます。登記手続きを機に、不動産会社・士業・管理会社への相談が生まれる。これは、これまでになかった相談ルートです。
「所有者不明」案件が減ることで、取引・活用が動きやすくなる
「誰に連絡すればいいか分からない」という状態が解消されていけば、買取・賃貸・リノベーション・解体といった提案をする相手が明確になります。不動産会社、リフォーム会社、解体業者、地域金融機関にとっても、アプローチしやすい環境に変わっていきます。
「登記×管理」をセットで提案できる事業者が強くなる
司法書士への紹介と、その後の建物管理サービスをセットで提供できる体制を持つ事業者は、差別化できます。「登記が終わったあとの管理も、ぜひご相談ください」という流れを作れれば、顧客との接点が長くなります。
「相続×空き家」の知識を持つ人材の価値が上がる
相続と空き家の両方に詳しい人材は、今後さらに希少になります。士業の方が空き家管理の知識を持つ、管理会社が相続の基礎知識を持つ。それだけで、顧客からの信頼度がまったく変わります。
現場で増えてくる相談パターン
事業者として、以下のような相談が増えることが想定されます。
あらかじめイメージを持っておくと、対応がスムーズになります。
「親が施設に入ったが、実家の名義は父のまま」 まだ相続は発生していませんが、将来の登記と管理の準備が必要なケースです。
「今から動いておくと楽ですよ」と伝えられる事業者が信頼されます。
「父が亡くなり、誰も住んでいない実家が残っている」 相続登記と空き家管理を同時に考える必要があります。
司法書士への橋渡しと管理サービスの提案を同時にできる事業者が強みを発揮します。
「兄弟で実家をどうするか決められない」 相続人申告登記でひとまず義務を回避しながら、建物の管理は継続するという提案ができます。
「所有者は生きているが、登記住所が10年以上前のまま」 2026年以降は住所等変更登記の義務化対象です。「過料のリスクがあります」という情報提供が、相談のきっかけになります。
「近隣から苦情が来たが、所有者に連絡できない」 行政と連携しながら所有者の特定を支援できる立場の事業者が活躍できます。登記情報が整備されれば減っていくケースですが、当面はまだ続きます。
事業者が今のうちに動いておきたいこと
① 司法書士・行政書士との連携体制を整える 登記の相談が来たとき、すぐに専門家へつなげる体制があるかどうか。紹介できる士業ネットワークを持っていると、相談者から一段と信頼されます。
② 「登記が終わったあと」のサービスを用意する 相続登記が完了した瞬間から、管理・活用・売却・賃貸という選択肢が動き始めます。その入り口に立てる事業者になれるかどうかが、今後の差別化につながります。
③ 顧客に確認できる習慣を持つ 管理物件や相談顧客に対して、次の点を確認できる習慣を持っておくと、早期発見・早期対応ができます。
- 登記の名義人が誰か(亡くなった方のままになっていないか)
- 相続登記が済んでいるか(相続発生から3年以上経っていないか)
- 遺産分割が終わっているか(まとまっていない場合は相続人申告登記を検討)
- 登記上の住所が現住所と一致しているか(2026年4月以降は義務化対象)
- 所有者の施設入所・転居がないか(管理費の負担者・緊急連絡先が変わる可能性)
- 台風・苦情時の緊急判断者が決まっているか
④ 「知識」を「言葉」に変える 制度を知っているだけでは差別化になりません。相談者に「なぜ今動いたほうがいいのか」を、不安を煽らず、でもちゃんと伝えられる言葉を持てているかどうかが、信頼につながります。
所有者が動けない理由を、事業者は知っておくといい
「登記しなきゃいけないのは分かっている。でも動けていない」こういう方は、怠慢でそうなっているわけではありません。
相続人同士の関係がぎくしゃくしている。
誰も実家に思い入れがなくて後回しになっている。
手続きが面倒で、どこから手をつければいいか分からない。
費用の見当もつかない。親の家に向き合うことが、感情的につらい。
こういう背景があって、登記が止まっています。
「早くしないと過料になりますよ」という話だけでは、人はなかなか動きません。
「まず何から始めればいいか」「どこに相談すればいいか」を整理して渡せる事業者が、長く信頼される存在になります。
空き家問題は制度の話である前に、人の話なんです。
この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの「空き家ビジネスnote」でも解説しています。
















