空き家が多い木造密集地域における火災被害拡大防止と地域防災力向上に関する政策提言書(案)

1.提言の趣旨

令和7年11月18日に大分県大分市佐賀関で発生した大規模火災では、187棟が焼損し、被災エリアは約48,900㎡に及びました。国土交通省国土技術政策総合研究所および建築研究所の被害調査速報では、被害地域は建物が比較的密集した地域であり、地域内に空地や空家が点在していたこと、また防火地域・準防火地域や建築基準法第22条区域のいずれにも該当しない地域であったことが示されています。さらに、火災発生当時は北西から西北西の強風が吹いていたと整理されています。

消防庁は、令和8年3月9日に開催した「大分市大規模火災を踏まえた消防防災対策のあり方に関する検討会」において、同火災に係る消防庁長官による火災調査報告書の概要を議題として取り上げています。報道では、出火原因は焼損が激しく特定できず、空き家が多い地区であったことや、周辺の空き家が火災の早期発見の遅れや延焼拡大に影響した可能性が指摘されています。

この事例が示したのは、空き家問題が単なる利活用や景観の問題にとどまらず、地域防災そのものの課題であるということです。とりわけ、人口減少、高齢化、木造建築物の密集、狭あい道路、空き家の点在が重なる地域では、ひとたび火災が発生すると、初期発見、避難、消防活動、延焼防止のすべてが難しくなります。したがって、今後の空き家対策は、「所有者責任の明確化」だけではなく、「地域全体が燃え広がらない仕組みづくり」へ進化させる必要があります。

以上を踏まえ、一般社団法人空き家管理士協会は、国、自治体、地域住民、関係事業者が連携して取り組むべき施策として、以下のとおり提言します。

2.基本的な考え方

現在、国は「所有者による空家等の適切な管理について指針となるべき事項」を示しており、建物の傾き、外装材や屋根の破損、雨水侵入、排水設備の不具合、敷地内のごみ、立木、門塀、擁壁、動物の棲みつきなどについて、点検、補修、清掃、剪定、通水、換気等の管理行為を例示しています。国はこれらを、空き家が「管理不全空家」や「特定空家」にならないための予防的な管理として位置付けています。

また、令和5年改正の空家等対策の推進に関する特別措置法により、「適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態」にある空家等が「管理不全空家等」として法的に位置付けられ、市町村長は当該所有者等に対して指導および勧告を行うことができるようになりました。これは、危険が顕在化してから対応するのではなく、その手前で是正を促す制度へ転換したことを意味します。

しかし実務の現場では、「適切な管理」と言われても所有者にとって必要な行為が十分具体的でなく、自治体にとっても助言・指導の判断基準にばらつきが生じやすいという課題があります。したがって、これから必要なのは、既存の国の管理指針を土台にしつつ、所有者、管理事業者、自治体の三者にとって分かりやすい最低管理基準を明確化することです。

3.政策提言

提言1 空き家対策を防災政策として再定義すること

空き家が多い木造密集地域では、空き家対策は福祉、景観、利活用の文脈だけでは不十分です。空き家が管理不全のまま放置されれば、倒壊、部材落下、悪臭、害虫だけでなく、延焼拡大や避難障害、消防活動阻害といった防災上のリスクを高めます。国の管理指針も、空き家の不適切な管理が防災、衛生、景観悪化などを通じて地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼすおそれがあることを明示しています。

このため、自治体においては、空き家対策担当部局、消防、防災、建築、福祉、危機管理部局が連携し、空き家の集積する木造密集地域を防災上の重点エリアとして把握し、空き家対策計画と地域防災計画を接続して運用すべきです。

提言2 危険空き家の除却を地区防火の観点から加速すること

佐賀関の事例では、密集した建物群に加え、地域内に空地や空家が点在していました。空き家の除却は、景観改善や流通促進のためだけでなく、延焼拡大を抑えるための防火空地の確保という意味を持ちます。被害調査速報でも、被害地域の空間構成と延焼状況の把握が重視されており、密集地域の市街地構造そのものが課題であることがうかがえます。

したがって、老朽化が進み、防災上の危険性が高い空き家については、単体の是正にとどまらず、避難路、延焼遮断、消防進入の観点から除却の優先順位を付け、除却後の跡地を防火空地、避難スペース、資機材置場等として活用できる制度設計を進めるべきです。

提言3 狭あい道路地域では「最小限の避難路・進入路確保」を優先すること

密集市街地では、すべての道路を一律に拡幅することは現実的ではありません。しかし、火災時の避難と消防活動のためには、最低限確保すべき避難路、消防進入路、延焼遮断帯を明確にし、優先的に整備する必要があります。佐賀関の被災地域は防火規制のかからない地域であり、人口減少のなかで建物が比較的密集した状態が続いていました。こうした地域では、道路後退、隅切り、除却跡地の連結、空地のネットワーク化など、段階的な改善が有効です。

このため、自治体は、空き家除却支援と避難路整備を一体で進める仕組みを整え、道路、空地、耐火建築物の配置を組み合わせた面的な防火計画を進めるべきです。

提言4 火災の早期覚知を強化する仕組みを整えること

佐賀関火災では、火災発生時に強風下で延焼が進み、結果として大規模な被害に至りました。周辺に空き家が多く、人の目が減った地域では、火災の発見が遅れやすく、初動の遅れが被害拡大に直結します。消防庁がこの火災を踏まえた検討会を継続していること自体、面的な防火安全対策の必要性を示しています。

そのため、高齢者世帯や空き家隣接地区を含め、住宅用火災警報器の維持管理、地域見守り、巡回点検、防犯灯、簡易カメラ、消防団や自治会との異変通報体制など、地域に応じた早期覚知の仕組みを整えるべきです。

提言5 空き家の最低管理基準を明確化すること

空き家対策の実効性を高めるためには、管理不全空家等または特定空家等に至った後の対応だけでなく、それ以前の段階で所有者等が最低限維持すべき状態を、より具体的に示す必要があります。国の管理指針では、建築物全体の傾き、外装材や屋根の破損、雨水侵入、排水設備の破損、敷地内のごみ散乱などについて、点検・補修・清掃・通水・換気等の管理行為が示されています。また、国の周知資料では、庭木の剪定、敷地内清掃、通気・換気、排水設備の通水、郵便物確認など、具体的な管理行為も例示されています。

しかし現場では、「適切な管理」の意味が所有者に十分伝わらず、自治体の助言・指導の判断にも差が生じています。このため、国は現行指針を基礎に、少なくとも保安、衛生、防災、定期管理の4観点から、標準的な「空き家の最低管理基準」を提示すべきです。具体的には、倒壊や部材落下、飛散、不法侵入を防ぐ保安上の基準、悪臭や害虫・害獣、ごみ散乱、排水不良を防ぐ衛生上の基準、雑草、枯れ草、放置物、繁茂木等による延焼拡大や避難・消防活動阻害を防ぐ防災上の基準、さらに通気、換気、通水、清掃、剪定、災害後点検等を一定頻度で行う定期管理基準を明確にすることが必要です。

最低管理基準は、所有者への一方的な負担強化のためではなく、管理不全空家化を未然に防止し、行政代執行や深刻な近隣トラブルに至る前の段階で、所有者、自治体、管理事業者が共通認識を持って動くための予防的基準として位置付けるべきです。改正空家法が「管理不全空家等」を制度化した趣旨とも整合します。

提言6 管理困難な所有者を支える仕組みを整備すること

空き家所有者のなかには、遠方居住、高齢、相続未整理、経済的事情などにより、自力で継続的な管理を行うことが困難な者も少なくありません。最低管理基準を実効性あるものにするには、「守れ」と求めるだけでなく、「守れる」支援制度を用意する必要があります。国も管理業者等の活用を呼びかけており、空き家管理を社会的に支える方向性を示しています。

このため、遠方所有者向けの管理委託支援、管理サービス利用費への補助、相続未登記・所有者不明案件への法務支援、相談窓口の整備など、所有者が最低管理基準を満たしやすくなる支援制度を講じるべきです。

提言7 空き家管理の担い手を地域防災人材として位置付けること

空き家管理の現場では、定期巡回、施錠確認、通気・通水、庭木管理、外観確認、近隣対応など、日常的な管理行為が行われています。これらは単なる維持管理にとどまらず、火災予防、異常の早期発見、周辺環境保全という防災機能を果たしています。国の管理指針や周知資料が示す管理行為と、民間管理事業者の実務は親和性が高いと言えます。

したがって、自治体は空き家管理士や地域の空き家管理事業者を、地域防災の協力人材として位置付け、協定締結、見守り連携、管理報告の活用等を進めるべきです。

提言8 国は「空き家が多い防火脆弱地域」への重点支援制度を創設すること

人口減少、高齢化、木造密集、狭あい道路、所有者不明、空き家の増加が重なる地域では、通常の空き家対策や防災施策だけでは改善が進みにくいのが実情です。佐賀関田中地区でも、過去20年で人口と世帯数が大きく減少しており、地域構造の変化のなかで防火脆弱性が高まっていたことが読み取れます。

このため国は、空き家率、木造密集度、道路狭あい度、高齢化率等を踏まえて重点地域を指定し、除却、避難路整備、不燃化、見守り設備導入、管理支援を一体的に支援する交付金・補助制度を創設すべきです。

4.おわりに

空き家問題は、所有者個人だけの課題ではありません。とりわけ木造密集地域では、空き家の管理不全が、地域全体の安全性を左右する時代に入っています。国の制度も、特定空家等への事後対応から、管理不全空家等への早期対応へと重心を移しています。

いま必要なのは、「空き家をどう活用するか」だけではなく、「空き家があっても地域全体が危険にならないようにするにはどうするか」という視点です。その中核に位置付けられるべきものが、空き家の最低管理基準の明確化であり、それを支える所有者支援、除却、防火、避難、見守り、官民連携の仕組みです。

一般社団法人空き家管理士協会は、空き家管理の実務を担う立場から、国および自治体に対し、空き家対策と地域防災を一体で進める制度整備を強く求めます。

 

空き家管理士協会は、空き家の可能性に挑戦します。

この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの空き家ビジネスnoteでも解説しています。

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