空き家管理事業者が担える防災の役割と、自治体・所有者との連携設計
7月28日、熊本県で最大震度7を観測する大きな地震がありました。
いまも被害の全容が見えない段階です。被災された方に、心からお見舞いを申し上げます。
災害が起きると避難所は人であふれます。
その一方で、すぐ近くには誰も住んでいない空き家が点在している。
この二つは別々の問題に見えて、平時から手を打っておけば一本の線でつながります。
国はすでに空き家を災害時の住まいとして使う前提で動いていますが、平時の登録・鍵の管理・地域の担い手という肝心なところが空白のままです。
この記事では、その空白を民間の空き家管理事業者がどう埋められるのか、あなたの業種がどこで噛めるのか、そして事業として成り立たせるには何が必要かを、率直な弱点も含めて整理します。
国はすでに、空き家を災害に使うつもりでいる
「災害時に空き家を活用する」というのは、思いつきのアイデアではありません。国はもう、その前提で制度を組んでいます。
災害が起きると、被災した人はまず避難所に入り、そのあと仮設住宅へ移ります。
この仮設住宅には、プレハブを新しく建てるパターンだけでなく、民間の賃貸住宅を行政が借り上げて提供する「応急借上住宅」という仕組みがあります。ざっくり言えば、空いている家を行政が借りて、被災者に住んでもらう方法です。
これが重視されているのは、大きな災害ではプレハブの建設だけでは戸数がまったく足りないからです。
既存の空き家を使えるだけ使わないと、そもそも回らない。避難所からいったん借上住宅などへ移ってもらう「二次避難」という段階も、過去の大震災で実際に運用されました。
方向性としては、国もとっくに「空き家は災害時の住まいになる」と認めているわけです。
災害が起きてからでは、まず間に合わない
とはいえ、「災害が起きたら近所の空き家を開けて使えばいい」という発想は、現場ではそのまま動きません。
まず鍵が開きません。
空き家の所有者が近くに住んでいるとは限らないからです。
国の調査では、空き家所有者のおよそ3割が、車や電車で1時間を超える遠方に住んでいるとされています。
相続で継いだけれど自分は遠くで暮らしている、というよくあるパターンです。
災害の直後にその人へ連絡がつくのか、鍵はどこにあるのか、誰も答えられません。
建物の状態もわからない。
外から無事に見えても、余震で倒れる可能性がある。電気や水道が止まっているかもしれない。
事故が起きたときの責任、使用後の清掃、費用の負担。
こうしたことが全部あいまいなまま、混乱のさなかに使おうとしても機能しないのです。
必要なのは、災害時に空き家を使うことではなく、平時のうちに「使える状態にしておく」こと。
この整えておく作業こそが、じつは事業の中身になります。
空白になっているのは「平時の運用」
国の枠組みには、大きな空白があります。
応急借上住宅は基本的に「もともと賃貸に出ている空き家」が対象で、相続したけれど売る気も貸す気もなく置いてある家は、そこからこぼれ落ちています。
そして「平時のうちに個々の空き家を登録し、点検し、鍵を預かり、災害に備えて管理しておく」という部分を誰が担うのかが決まっていません。
自治体の職員が地域中の空き家を一軒ずつ回るのは現実的ではない。ここがぽっかり空いています。
この空白は、そのまま民間の仕事になります。
登録候補の調査、定期的な巡回管理、遠方の所有者に代わる鍵の管理、発災時の開錠と入退室の記録、使用後の清掃と原状回復。
一連の流れが、そのまま業務になります。
あなたの業種は、どこで噛めるか
これは一社で全部やる話ではありません。
物件を見る目のある不動産や建築は登録調査で、巡回は空き家管理や警備・清掃で、修繕やリフォームは工務店で、老朽化した建物の解体判断は解体業で、所有者との契約や相続がらみは司法書士・行政書士で、費用の立て替えや補助のスキームは地域金融で。
空き家という一つの箱をめぐって、複数の業種が仕事を分け合う構造が見えてきます。
既存の事業に、防災という柱を一本足すイメージです。
事業として成り立たせる条件
正直に言えば、この構想には弱点もあります。
一つは、国の借上住宅は賃貸用が前提で、放置された相続空き家は自治体の独自制度として立ち上げる必要があり、ハードルが低くないこと。
もう一つは、こちらのほうが重要です。
収益の出口を「災害時」だけに置くと、事業は成り立ちません。
災害はいつ来るかわからず、その間に事業者が干上がってしまうからです。
だから肝は、平時にお金と人が回る設計をつくれるかどうか。
登録調査、月々の巡回管理、鍵管理の受託に加えて、登録した空き家を防災訓練の会場や備蓄の置き場、地域の相談・交流の場として平時から使う。
人が出入りしていれば建物も傷みにくく、事業としても回り続けます。
防災拠点として活かすことが、そのまま空き家を管理不全から守ることにつながります。
立場によって見え方は変わる
所有者には「知らない人が家に入るのは不安」という当然の心理があります。
だからこそ制度側に、無料の建物診断や管理費の補助、災害時の使用料など、持ち出しにならないと感じられる仕掛けが要ります。
事業者にとっては、増え続ける空き家に防災という切り口が加わり、自治体からの委託という比較的とぎれにくい仕事が生まれる可能性があります。
自治体にとっては、避難所の混雑と空き家という二つの課題を一つの制度で同時に手当てできるかもしれません。
管理されていない空き家は災害時のリスクになりますが、管理されている空き家は地域を守る資源になれる。
同じ空き家でも、平時に手を入れているかどうかで正反対のものになります。
この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの「空き家ビジネスnote」でも解説しています。
















