【空き家活用】体育館避難の限界と、民間空き家が担える役割
熊本の避難所が示した、公的拠点だけに頼る難しさ
2026年7月28日、熊本県宇城市氷川町で震度7を観測する地震が起きました。
2016年の熊本地震の記憶が残る土地で、再び多くの人が避難所での夜を迎えることになりました。
報道が伝えた熊本市の避難所には、こんな光景があったといいます。
ひとり暮らしの高齢女性が、揺れと余震の続くなか慌てて避難し、着替えや薬を持ち出せなかった。
寝袋を持参して電源を探す人、床に横になる人。飲料水を受け取りながら、スマートフォンで情報を追う一夜でした。
硬い床、限られたプライバシー、トイレの行列。
小さな子どもやペットのいる家庭、高齢者にとって、こうした環境で数日を過ごす負担は小さくありません。
公的な避難所はもちろん欠かせませんが、そこ「だけ」に地域の受け皿を集中させる構造には、無理がある。
現場の声はそう語りかけているように思えます。
フェーズフリーという考え方を事業に翻訳する
そこで手がかりになるのが「フェーズフリー」という発想です。
ふだんの日も、もしもの日も、どちらでも役に立つように備えておくという考え方で、キャンプ道具が趣味の道具にも命を守る道具にもなるのと同じ理屈です。
これを空き家活用に当てはめると、平時は収益施設、有事は地域の防災拠点という二重の役割を持つ物件になります。
事業者にとって重要なのは、これが「持ち出しの社会貢献」ではなく、稼働率と社会的意義を両立させる設計だという点です。
平時の収益と有事の機能をどう同居させるか
具体的なイメージは、ふだんは「お家キャンプ体験施設」やレンタルスペースとして貸し出す物件です。
庭でのバーベキューや田舎暮らし体験といった需要を拾いながら、収益を生みます。
その上で、災害時に備えた機能をあらかじめ組み込んでおきます。
レジリエンス拠点とも呼ばれる考え方で、柱になるのは次のような装備です。
- 太陽光パネルと蓄電池による電源確保。今回の熊本でも県内で停電が広がり、復旧まで時間を要しました。避難所で電源を求める人がいたことを思えば、近所で充電できる場所の価値は大きい
- 水・食料・簡易トイレなどの備蓄。利用客向けのストックとは別枠で、倉庫に確保しておく
- 平時利用と防災機能を両立させる導線設計。ふだんの遊び場が、そのまま拠点に切り替わる形
事業者の立場では、この「平時◯◯ × 地域の小さな防災拠点」という掛け算を、地域の需要に合わせて設計できるかどうかが腕の見せどころになります。
コスト負担を軽くする自治体連携という選択肢
太陽光パネルや蓄電池は安い投資ではありません。ここで検討したいのが、自治体との災害協定です。
「災害時にはこの空き家を地域の一時避難所として提供する」という約束を自治体と交わしておくことで、改修費や設備投資に対する補助が受けやすくなる可能性があります。
制度の内容は自治体ごとに異なるため、具体的な条件は必ず窓口で確認する必要がありますが、自治体にとっても、新設の避難所を一から建てるより低コストで拠点を増やせる利点があります。
空き家管理事業者にとっては、この協定スキームこそが提案の核になります。
オーナーが単独で設備投資に踏み切るのはハードルが高い。
そこに「協定を前提にした補助の可能性」と「平時の収益設計」をセットで示せると、投資の意思決定を後押しできます。
橋渡し役として、事業者が担える余地は大きいはずです。
老朽空き家のリスクと、役割を与える価値
放置され老朽化した空き家は、今回の地震でも倒壊やブロック塀の危険が各地で心配されました。
管理されない空き家は、地域にとってリスクそのものです。
一方で、手を入れられ役割を与えられた空き家は、地域の資産に変わります。
停電した街で明かりのついている家、充電できて涼しい空間のある場所。
そうした拠点が近所にあるだけで、住民の安心は大きく変わります。
事業者が提供しているのは物件管理であると同時に、この「地域の安心」でもある、と捉え直すことができます。
ぼくは、空き家管理という仕事が防災という切り口を得たとき、オーナーにも自治体にも地域住民にも同時に価値を届けられると考えています。
熊本の避難所の光景を思うほど、その思いを強く感じます。
FAQ 5問
Q. フェーズフリー空き家は、防災を名目にした収益性の低い事業になりませんか。
平時の利用(体験施設・レンタルスペースなど)で収益を確保する設計が前提です。防災機能はその上に付加するもので、収益と両立させることを狙います。稼働率の見込める立地・用途を選ぶことが成否を分けます。
Q. 自治体との災害協定を結べば、必ず補助金が出るのですか。
補助の有無や条件は自治体によって大きく異なり、断定はできません。協定があると設備投資への支援を受けやすくなる可能性がある、という位置づけです。検討の際は、対象自治体の防災担当窓口で最新の制度を確認してください。
Q. 空き家管理事業者は、この分野でどんな役割を担えますか。
オーナーと自治体の橋渡し、物件の防災機能の企画、平時運用の設計、そして継続的な管理業務まで一貫して関われます。設備投資そのものを事業者が負う必要はなく、仕組みづくりと管理で価値を出す形が現実的です。
Q. どんな物件が向いていますか。
平時利用の需要が見込める立地であること、太陽光や蓄電池を設置できる構造・敷地であることが目安になります。ただし建築や設備の可否は個別判断が必要なため、専門家の確認を挟むことをおすすめします。
Q. 防災機能として、まず何から備えるべきですか。
電源(太陽光・蓄電池)、水・食料・簡易トイレの備蓄、そして平時と有事を切り替える導線が基本の三点です。「もしここで一週間過ごすなら何が足りないか」を起点に洗い出すと、優先順位が見えてきます。
この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの「空き家ビジネスnote」でも解説しています。
















