空き家が過去最多なのに家賃は上がる。この「ねじれ」に眠るビジネス機会

空き家900万戸は、そのまま「借りられる家900万戸」ではない

2023年の住宅・土地統計調査で、空き家は全国で900万戸を超え、空き家率も13.8%になりました。

おおよそ7戸に1戸という水準です。数字だけを見れば、家は明らかに余っています。

ただ、この900万戸は中身が一様ではありません。

賃貸の募集中、売り出し中、別荘のような二次的住宅、入院や施設入所での長期不在、相続後そのままの家、解体待ちの家。まったく性格の違うものが同じ「空き家」になってます。

このうち、賃貸用・売却用・別荘などを除いた「放置されやすい空き家」だけを取り出すと、約385万戸。全体の4割ほどで、増えているのもこの部分です。参入を検討する際は、「900万戸=すぐ流通できる在庫」ではない。

この前提から入るほうが現実的だと思います。

家が余る場所と、足りない場所がずれている

もうひとつの論点が、地域のミスマッチです。

人口が減れば住宅需要も減る、とは限りません。

2025年の人口移動報告では、東京圏は転入が転出を12万人以上上回り、東京都だけでも6万人超の転入超過でした。

人口全体は縮んでも、都市部にはまだ人が集まっています。

地方で戸建てが空いても、都市部でワンルームを探す人の住まい不足は解消されない。

日本の状況は「住宅不足」というより、住宅の所在地と需要の所在地のズレとして捉えると見通しがよくなります。

「空き家」と「住める家」は別物

ここは空き家管理の実務が関わる部分です。

人が住まなくなった家は、そのまま保存されるのではなく、そこから傷みはじめます。

通風・通水の不足、雨漏り、給排水設備の劣化、庭木、害虫、外壁や屋根、防犯。管理されない期間が延びるほど、「すぐ貸せる家」から遠ざかります。

実際には家があるのに、商品として住宅市場に戻せないストックが大量にある、ということです。

だからこそ空き家管理は、単なる見回りにとどまりません。

傷んでいく住宅を市場から消えないように留めておく仕事、という側面を持っています。

ここが、異業種が価値を出せる余地でもあります。

新しく建てるコストも上がっている

供給側の事情も変わりました。

建築資材・人件費・土地代がそろって上昇しています。

2026年の地価公示では住宅地が5年連続で上昇し、東京圏・大阪圏とも上げ幅が広がりました。

公共工事の設計労務単価も、2026年3月適用分で14年連続の上昇です。

新築賃貸を安く大量に供給する、というやり方が以前ほど容易ではなくなっている。

都市部の家賃には、需要集中・建築費上昇・土地価格上昇という三つの力が同時に働いていると整理できます。

これからの論点は「何戸あるか」より「何戸戻せるか」

これまで空き家は「900万戸ある」「空き家率13.8%」というストックの大きさで語られがちでした。

これから効いてくるのは、そのうち何戸を住宅市場へ戻せるか、という問いだと考えています。

385万戸ある放置されやすい空き家の一部でも、管理・点検・残置物整理・小規模修繕を経て、賃貸・売却・二地域居住(生活拠点を二か所に持つ暮らし方)・社宅・福祉住宅といった出口につなげられれば、「新しく建てる」以外の供給策になります。

1戸新築するより、傷む前の1戸を戻すほうが、早く、負担も小さく収まる場合があります。

異業種の「本業」が、空き家再生の1ピースになる

この流れが興味深いのは、ひとつの業種で完結しない点です。

家が空いた直後の見回りと状態確認は、現場を回る警備業や、建物を見慣れた清掃業の本業の延長になりうる。

残置物整理や小規模修繕は、リフォーム・解体・便利屋的サービスの領域です。

所有者との連絡、相続や登記状態の整理、貸す・売るの判断支援は、士業や不動産業の出番であり、地域金融機関も相談窓口として自然に絡みます。

活用段階では、介護・福祉事業者の住宅ニーズ、自治体の移住・定住施策、これらをつなぐスタートアップまで関わりしろがあります。

つまり、新しい事業をゼロから立ち上げる必要は必ずしもありません。

既存事業のどこが空き家再生のどの工程に当てはまるか。そこを見極めるところから始められます。

動かないのは「所有者心理」も大きい

市場に戻せる家があっても、所有者が動かなければ始まりません。

そして所有者はなかなか動けないものです。実家は単なる不動産ではなく、思い出や兄弟間の意見、費用の話が絡みます。「いつか考えよう」と先送りされやすい。

事業者として強いのは、技術や資格そのもの以上に、迷っている所有者の背中にそっと手を添えられる姿勢かもしれません。

ここが動かないと、仕組みは回りにくいからです。

空き家管理は住宅ストックのインフラへ

空き家900万戸と家賃上昇は、矛盾ではなく同時進行です。

それは「新しく建てるだけでは住宅政策が回らなくなってきた」ことの表れだと、ぼくは見ています。

足りないのは家そのものではなく、「必要な場所に、必要な状態で、使える家」です。

空き家管理は、その状態を保つためのインフラとして位置づけが増していくと考えています。

空き家管理士協会は、空き家の可能性に挑戦します。

この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの空き家ビジネスnoteでも解説しています。

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