介護が始まった日が、空き家問題の始まりだった「留守宅管理」という新市場を読む

実は、空き家化のプロセスは相続よりずっと前、親が施設に入ったその日から静かに始まっています。

売る決断も、貸す決断も、まだできない。でも家は確実に傷んでいく。

制度の外に置かれたこの「かくれ空き家」が今、全国で急増しています。

この問題は所有者だけの悩みではありません。

不動産・介護・警備・清掃・士業など、さまざまな業種にとって、新しい連携と事業機会が生まれつつある領域でもあります。

制度化の動向と、事業者として今から準備できることを整理しました。

「かくれ空き家」という問題を知っていますか

少し想像してみてください。

お父さんが転倒して入院し、そのまま施設に入ることになった。

お母さんはすでに先に亡くなっていて、実家には誰もいなくなった。売るかどうかも、貸すかどうかも、まだ決まっていない。

でも家はそこにある。

こういう状況、今の日本では決して珍しい話ではありません。

団塊の世代が75歳以上の年齢層に差し掛かり、施設への入所や長期入院がこれからさらに増えていきます。

それにともなって、「誰も住んでいないけれど、まだ売るわけでも壊すわけでもない家」が、全国に静かに増え続けています。

空き家管理士協会では、この段階の家を「かくれ空き家」と呼んでいます。

統計上の「空き家」とは少し異なる、制度的にも心理的にも「まだ空き家とは呼びにくい」微妙な位置にある家です。

なぜ、この段階に制度の空白があるのか

「介護サービスで実家の管理もみてもらえないの?」と思う方は多いはずです。

ところが現行の介護保険制度では、訪問介護の生活援助はあくまで本人の日常生活を支えるもの

本人が施設に移って不在になった実家の管理は、給付対象として扱いにくいのが実情です。

つまり、親の施設入所後の実家は、制度の外側に放り出された状態になっています。

その結果、現実的にどうなるかというと、遠方の子どもが月に一度見に行く、近所の知り合いが善意で様子を見てくれる、あるいは誰も行けないままになる。

このどれかに落ち着くことがほとんどです。

家族の善意と体力に頼るしかないというのが、今の実態です。

放置された家で起きていること

「しばらく空けるだけだから大丈夫」そう思いがちですが、みなさんご存知のように「家」は人が住まなくなると意外と早く傷み始めます。

具体的にはこういったことが起きています。

  • 郵便受けが手紙やDMでいっぱいになり、不在がすぐ外からわかる状態になる
  • 通水されないまま放置されると、排水管や給水設備が傷む
  • 雨漏りや漏水が起きても、気づくのが数ヶ月後になる
  • 庭の草木が伸び放題になり、近隣トラブルになる
  • 台風後に屋根や雨戸の状態を確認できない

これらは「家の管理の問題」でありながら、本人にとっては「将来戻る可能性のある生活基盤が崩れていく問題」であり、家族にとっては「介護以外にのしかかる見えない負担」でもあります。

地域にとっては、管理不全空き家の予備軍が静かに増えていくことを意味します。

空き家対策は「相続後から」では遅すぎる

「まだ相続が終わっていないから空き家対策は関係ない」これはよくある誤解です。

空き家化のプロセスは、相続のずっと前から始まっています。

親が施設に入り、長期入院が続き、ショートステイと在宅を繰り返しながらだんだん戻りにくくなっていく。

その段階で、すでに実家の空き家化は静かに進んでいます。

これからの空き家対策は「相続後に何をするか」だけでなく、「介護が始まったタイミングからどう向き合うか」という視点を持つことが重要です。

そしてこれは、事業者にとって「接点を持てるタイミングが大きく前倒しになる」ことを意味します。

所有者が動けないのには、ちゃんと理由がある

なぜ早めに動かないのか、外から見ると不思議に思えることもあるかもしれません。

でも実際には、決断できない構造的な理由があるんです。

親がまだ生きているうちに家の処分を考えるのは気が引ける。

自宅に戻ることをモチベーションにリハビリを頑張っている親のことを思うと、売るとも貸すとも言い出しにくい。

そもそも兄弟間でまだ話し合いができていない。自分も余裕がなくて実家のことまで手が回らない…。

これは「迷っている」というより「向き合いたくても向き合えない」状況です。

責められる話ではなく、そうなりやすい構造があるということです。

「留守宅管理」の制度化という動き

空き家管理士協会が提言しているのが、「留守宅管理を地域包括ケアの中に位置づける」という考え方なんです。

地域包括ケアシステムとは、ざっくりいうと「医療・介護・生活支援・住まいをセットで地域で支えていこう」という仕組みのことです。ところが現状、その「住まい」の部分が、本人が施設に入った瞬間に制度の外に出てしまっている。この欠落を「ミッシングリング」と呼ぶことがありますが、これが空き家問題と介護問題が交差するポイントです。

いきなり介護保険に組み込むのは現実的にハードルが高い。

そのため、まずは自治体のモデル事業として小さく始め、地域包括支援センター・ケアマネ・介護施設・空き家管理事業者・自治体が連携して実証し、効果を積み上げながら制度化につなげていくアプローチが現実的です。

対象サービスは「最低限・標準化・限定給付」が原則

公的連携に耐えうるサービスの中身は、シンプルに絞り込む必要があります。想定されるのは以下のような内容です。

  • 月1〜2回の外観確認
  • 通風・通水の実施
  • 郵便物の滞留確認
  • 漏水・破損・不法侵入などの異常確認
  • 災害後の一次確認
  • 家族・ケアマネ・地域包括支援センターへの報告

大規模清掃や修繕、資産価値向上を目的とした管理は対象外とする線引きが重要です。

目的は「本人の生活基盤と地域の安全を守ること」であり、私有財産の管理代行ではありません。

この動きで、どんなビジネスチャンスが生まれるか

留守宅管理が制度として整備されると、事業環境にどんな変化が生まれるでしょうか。

介護・福祉分野との連携チャンネルが開く

ケアマネや地域包括支援センターが「住まいの見守り」をセットで考えるケースが増えれば、空き家管理事業者にとって新しい紹介・連携の経路ができます。介護事業者にとっても、利用者家族への付加価値提案が広がります。

担い手の品質基準が変わり、参入障壁と差別化が明確になる

公的連携に耐えられる標準仕様書、報告書式、個人情報保護対応、緊急時連携体制が整っていない事業者は、この分野に入りにくくなります。逆に、きちんと準備した事業者には信頼と案件が集まりやすくなる構造が生まれます。

空き家相談の入り口が「相続後」から「施設入所時」に前倒しになる

これは、関わる事業者にとって接点を持てる時期が大きく変わることを意味します。

不動産・士業・建設・清掃・警備など、空き家に隣接する業種すべてにとって、関与の起点が変わってきます。

今から準備できることは何か

制度化の動きはまだ始まったばかりです。ただ、流れに乗るための準備は今からできます。

事業者として取り組めること

  • 留守宅管理のサービスメニューを整理し、標準化しておく
  • 報告書式・写真記録の仕様を整えておく
  • ケアマネや地域包括支援センターとの顔つなぎを始める
  • 個人情報保護ポリシーと緊急連絡体制を明文化する
  • 空き家管理士の資格取得や協会との連携を検討する

所有者・家族として確認できること

  • 親が施設に入った時点で、実家の管理担当を家族内で決めておく
  • 地元で留守宅管理を依頼できる事業者を調べておく
  • ケアマネに「実家の管理も相談できますか」と聞いてみる

小さな一歩でも、早めに動いておくことで「しまった」が減ります。

介護と空き家の問題はすでにかなりの部分でつながっており、制度がそれに追いつくのはこれからです。

その前に動き出せる事業者が、この領域の担い手になっていくはずです。

空き家管理士協会は、空き家の可能性に挑戦します。

この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの空き家ビジネスnoteでも解説しています。

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2019年3月より、一般社団法人空き家管理士協会の皆さんの年間登録料のクレジットカード支払いが可能となりました。利用できるクレジットカードはVisa,Master,JCB,Amex,Dinersです。ぜひご利用ください。
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