行政がAIで空き家を発見する時代に、民間事業者はどこで勝負するのか
「空き家を探す」と聞いて、職員が地図を持って歩き回っている光景を思い浮かべた方は多いかもしれません。
実際に、これまでの空き家調査は手間と時間のかかる作業でした。しかしその前提が、静かに変わりはじめています。
広島県が導入したAI空き家調査システム「ATLAS」は、水道データと建物情報をもとに空き家候補を自動で絞り込む仕組みです。
この変化は行政の効率化にとどまらず、民間事業者の役割や、空き家を取り巻く制度のあり方にまで影響を及ぼす可能性があります。
不動産、士業、警備、リフォームなど、空き家と接点を持つすべての業種にとって、知っておく価値のある動きです。
広島県の空き家は「10軒に1.5軒超」数字で見る現状
2023年の住宅・土地統計調査によると、広島県の空き家数は23万1,400戸。
前回2018年の調査から約1万5,800戸増加し、空き家率は15.8%となりました。全国平均の13.8%をやや上回る水準です。
「空き家が増えている」という報道は珍しくなくなりましたが、改めて数字で見ると、街中の10軒に1.5軒以上は誰も住んでいないという計算になります。これを地図に打ち込むと、かなりの密度になります。
AIシステム「ATLAS」とは何か
水道データ×築年数で候補を絞り込む仕組み
今回広島県で稼働しはじめた「ATLAS」は、市町が保有する水道使用量データ、閉栓の状況、建物の築年数などをAIに学習させ、「空き家の可能性が高い建物」を自動で絞り込むシステムです。
東京都市大学の秋山祐樹教授らの監修によって構築されました。
ざっくりいうと、「水道がほとんど動いていない、築年数も古い。もしかして空き家では?」という見立てを、人の手を借りずに大量に処理できる仕組みです。
行政調査がどう変わるのか
これまでは職員が水道データと地図情報を一件ずつ突き合わせ、疑わしい物件には現地確認に赴くという流れでした。市内に数万件あれば、それだけで膨大な時間がかかります。そのあいだにも、管理されていない空き家は朽ちていきます。
ATLASにより「可能性の高い物件だけを先に絞り込む」ことができるため、行政の調査リソースを大幅に効率化できます。
また、個別情報ではなくエリアごとの状況を色分けした形でデータを民間にも開放し、地域活性化に活用してもらう構想もあります。
重要なのは「AIが決めるわけではない」という点
ATLASはあくまでも「候補を絞り込む」システムです。空き家かどうかを最終的に確定するのはAIではなく、人間です。
現地での外観確認、所有者への連絡、管理状態の把握——こういった現場の作業は変わらず必要です。AIが変えるのは「どこを先に見に行くか」という優先順位付けの部分であり、現場確認の役割はなくなりません。
つまり、今後は次のような役割分担が進む可能性があります。
- AIが早期に「候補」を発見する(行政)
- 専門人材が現場で実態を確認する
- 民間事業者が所有者へ管理・活用の提案をする
この三角形が噛み合ったとき、はじめて「放置される空き家を減らす」という動きが実効性を持ちます。
補助金や制度だけでなく、仕組みとして流れができてきたそういう段階に入ってきていると感じます。
「かくれ空き家」という見落とされやすい問題
閉栓されていない空き家は、システムにも引っかかりにくい
水道データを使って空き家を把握しようとするとき、実は段階があります。
「基本料金しか動いていない住宅」があります。契約は続いていて、閉栓もされていない。でも実際の使用量はゼロかそれに近い。外から見れば普通の家に見えますが、誰も住んでいない——このような物件を「かくれ空き家状態」と呼んでいます。
こういった物件は統計上も管理上も見逃されやすく、ATLASのようなシステムがあっても、閉栓されていない限りは候補として浮かびにくい部分があります。なお、空き巣の側から見ても「空き家に見えにくい」という側面があり、適切な管理が継続されているかどうかの確認が、より重要になってきます。
閉栓が「意思表示」になる
水道メーターが取り外されたタイミング、つまり閉栓が正式に行われた段階で、ようやく制度的に「空き家」として認定しやすくなります。閉栓は「この建物を使う予定がない」という客観的な意思表示でもあります。
現時点では確定した制度変更ではありませんが、この閉栓データをもとに固定資産税の課税区分を見直すという流れが、次のステップとして考えられます。
現行制度でも「特定空き家」「管理不全空き家」に指定されれば住宅用地の特例が外れて課税が上がる仕組みはありますが、それはかなり状態が悪化してからの話です。
閉栓という客観データがあれば、もっと早い段階で所有者に向き合うきっかけを作ることができます。
※課税制度の変更については現時点での個人的な一つの見立てです。
発見の仕組みが整った後、所有者との接点をどう作り、どう信頼関係を築いて次の行動を引き出すか。
ここが、これからの空き家ビジネスの現場で問われる力です。
この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの「空き家ビジネスnote」でも解説しています。
















