介護と空き家管理のあいだにある「制度の空白」
介護支援は始まるのに、家への支援は始まらない
高齢者が施設に入所すると、本人へのケアはすぐに動き出します。
契約、住所変更、体調管理まで、多くの手が本人の生活を支えます。一方で、それまで住んでいた家に対しては、支援の仕組みがほぼ存在しません。
ケアマネジャーは本人の生活を支える立場です。
施設は入所後の暮らしを担います。
そのどちらの守備範囲にも、無人になった実家は入っていません。
換気、通水、草刈り、郵便物、防犯、災害後の見回り…。これらを誰が担うのかは、多くの場合、家族任せになっているのが実情です。
これは制度の欠陥というより、まだ誰も担当を決めていない領域と言ったほうが近いかもしれません。
そして、この領域はいま静かに拡大しています。
施設入所は、すでに空き家発生の主要な入口
国土交通省の令和6年空き家所有者実態調査では、空き家になった理由のうち「老人ホームなどの施設への入居」が10.0%を占めました。「死亡」43.9%、「別の住宅への転居」39.0%に続く、主要なルートの一つです。
全国の空き家は900万戸を超え、そのうち賃貸用・売却用・別荘などを除いた、使用目的の定まっていない空き家は385万戸に上ります。施設入所後に「そのうち戻るかもしれない」と判断を保留した実家は、この385万戸の予備軍に流れ込んでいく可能性があります。
高齢化が進むほど、この入口から生まれる空き家は増えていくと考えられます。
「使い道の保留」と「管理の保留」は別の話
施設入所の直後、家族は介護費用や契約、本人の体調への対応に追われます。
実家について「退所して戻るかもしれない」「親が生きているうちは売れない」「兄弟で相談してから」と結論を保留するのは、ごく自然なことです。
ただ、ここで整理しておきたいのは、使い道を保留することと、管理まで保留することは別だという点です。
売却や賃貸をすぐ決められなくても、管理は入所の時点から始められます。
特別養護老人ホームに当たる介護老人福祉施設の平均在所期間は、厚生労働省の資料で約3.2年です。
実家は平均して3年以上、無人のまま季節を越えることになります。
その間、雨漏りや詰まり、腐りといった小さな異変が発見されずに進むと、必要な工事の範囲は大きく変わってきます。
発見が早い家ほど、選べる将来が多く残ります。
この空白は、リスクではなく事業機会の入口
誰の仕事にもなっていない領域に、毎年新しい家が流れ込んでいます。事業者の視点で見れば、これは未開拓のマーケットとも言えます。
特に注目したいのは、その入口が「介護の現場」にあることです。
空き家対策は通常、家が空いてから始まります。
しかし施設入所は、その家が無人になるまさにその瞬間に立ち会える、数少ないタイミングです。
しかもそこには、家族と最も近くで話すケアマネジャーがいます。
もし施設入所の手続きのなかに「留守宅をどう管理するか」という確認項目が入れば、本人が戻る可能性があるなら戻れる状態を守り、戻らない可能性が高いなら家族が将来を考える時間を確保できます。
この一行を、いろいろな業界が支えられます。
月1回の見回りや通水・草取りは、清掃・警備・地域の管理会社の領域です。
方針を固める場面では、相続や後見にくわしい士業の出番があります。
戻らないと決まれば、不動産・リフォーム、場合によっては解体まで、仕事が連なって流れていきます。
介護の現場を入口にすると、その後ろに実務の需要が一本の線でつながっているのが見えてきます。
まずは、自分の事業と接点の「距離」を測る
とはいえ、いきなり介護と組むのは簡単ではありません。
まずは、いまの事業から「施設入所という接点」までの距離を確認するところから始めるのが現実的です。
すでにケアマネや地域包括支援センターと付き合いがあれば、距離はほぼゼロです。
清掃・警備・不動産を手がけていて介護とのつながりがまだなら、そこが伸びしろになります。
士業や地域金融のように、家族の意思決定に立ち会える立場なら、「留守宅、どうしますか」の一言を差し込める側かもしれません。
この距離を測るだけで、空白が他人事ではなくなります。
空き家は、放置されるから困った存在になるだけで、適切に手が入れば地域の資源にもなり得ます。
その担い手に、自社の事業がなれるかどうか。入口は、案外すぐ近くにあるかもしれません。
この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの「空き家ビジネスnote」でも解説しています。
















