ナフサショックで見えた建設業の弱点。工務店が空き家管理に取り組む理由
資材価格の上昇、人件費の増加、職人不足。
ここ数年、建設業を取り巻く環境は大きく変わっています。
見積もりを出した時点と、実際に工事をする時点で材料費が変わり、利益がみえなくなる。そんな声も少なくありません。
では、建設業はこれからも「工事が発生するのを待つ」だけでよいのでしょうか。
その答えの一つが、「空き家管理」です。
空き家は、売却・賃貸・解体・活用の前に、必ずと言っていいほど「管理が必要な期間」を持っています。
建物を見る目を持つ建設業者にとって、この空白期間には大きな可能性があります。
資材高騰が建設業に与える影響
最近、建設業界でよく聞くようになった言葉の一つに「ナフサショック」があります。
ナフサとは、石油から作られる化学原料の一つです。
塗料、防水材、接着剤、シーリング材、断熱材、塩ビ管、ビニールクロスなど、建設現場で使われる多くの資材に関係しています。
このナフサ価格が動くと、建設資材の価格にも影響が出ます。もちろん、資材高騰の原因はナフサだけではありません。円安、人件費、物流費、災害、国際情勢など、いくつもの要因が重なっています。
ただ、現場にとって大きいのは、原因よりも「利益が読みにくくなる」という現実です。
見積もりを出した時点と、実際に工事をする時点で材料費が変わっている。
施主に追加費用を説明しづらい。
そのまま受けると利益が削られる。
場合によっては、材料が入りにくく工事そのものが進みにくい。
特に地域の工務店、塗装業者、リフォーム会社などにとっては、こうした変化が経営の体力をじわじわ削っていきます。
「工事が来るのを待つ」ビジネスの弱点
建設業の売上は、多くの場合「工事が発生したとき」に立ちます。
新築、リフォーム、外壁塗装、屋根修繕、設備交換、解体工事。
どれも地域に必要な仕事です。
ただし、共通しているのは「何かが起きた後」に動く仕事だという点です。
雨漏りが起きた。
外壁が傷んだ。
設備が壊れた。
相続した家を解体したい。
空き家を売る前に片付けたい。
こうした相談が来て初めて仕事になる。
つまり、工事がなければ売上が立ちにくい構造です。
もちろん、これは建設業の基本的な形です。しかし資材高騰や人手不足が重なる時代には、「工事が来たとしても、十分な利益が残るか分からない」という問題も出てきます。
だからこそ、これからの建設業には、工事単体ではなく、継続的な接点を持つ事業設計が必要になります。
空き家には「管理が必要な期間」がある
ここで注目したいのが、空き家です。
日本では、人口減少、高齢化、相続、施設入所、遠方居住などを背景に、空き家が増えています。空き家と聞くと、すぐに「売却」「賃貸」「解体」「活用」を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし現実には、空き家になったからといって、すぐに売れるわけではありません。
すぐに貸せるわけでもありません。
解体するにも、家族の話し合いや費用の問題があります。
多くの空き家には、次の方針が決まるまでの「管理が必要な期間」があります。
この期間に何もされないと、建物は少しずつ傷みます。
草木が伸びる。
雨漏りに気づかない。
換気不足で湿気がこもる。
排水トラップが乾いて臭いが出る。
外壁や屋根の劣化が進む。
近隣から苦情が入る。
小さな異変のうちに気づけば、軽微な補修で済むこともあります。
しかし放置すれば、大きな修繕や解体につながる可能性があります。
ここに、建設業が関わる意味があります。
建設業が空き家管理に向いている理由
空き家管理というと、草刈りや郵便物確認、換気、通水、外観確認などをイメージする方が多いかもしれません。
もちろん、それらも大切な業務です。
しかし、建設業者が空き家管理に取り組む場合、強みはそれだけではありません。
屋根の傷みが分かる。
外壁のひび割れの危険度が分かる。
雨漏りの兆候に気づける。
基礎や床下の異変に気づける。
シーリングや防水の劣化を見られる。
これは、単なる見回り代行とは違う価値です。
「見に行きました」だけでなく、
「建物の状態を確認し、今後のリスクを伝えます」
と言えること。
ここが、建設業が空き家管理に参入する際の大きな差別化ポイントになります。
工事を取りに行く営業から、管理でつながる仕組みへ
空き家管理を建設業の視点で見ると、次のような流れが生まれます。
月1回の巡回で、屋根のズレや雨樋の詰まりを確認する。
外壁のひび、草木の繁茂、雨漏りの兆候を写真で記録する。
所有者に分かりやすく報告する。
必要に応じて軽微な補修を提案する。
さらに必要な場合は、屋根・外壁・防水・解体・活用の相談につなげる。
つまり、無理に工事を売り込むのではなく、管理を通じて自然に相談が生まれる仕組みです。
これは、営業コストを下げながら、所有者との信頼関係を育てる方法でもあります。
空き家の所有者は、遠方に住んでいることも多く、「誰に相談すればよいか分からない」と感じています。そこに、定期的に建物を見てくれる地域の事業者がいれば、大きな安心につながります。
月額収益と将来の工事相談をセットで考える
空き家管理は、月額制にしやすい事業です。
たとえば、外観確認、写真付き報告、通風・換気、通水、郵便物確認、草木の状況確認、台風後の臨時点検などをパッケージ化することができます。
さらに建設業者であれば、次のような追加メニューも考えられます。
建設業ならではの追加サービス
- 屋根・外壁の劣化チェック
- 雨漏りリスクの確認
- シーリングの劣化確認
- 修繕優先順位レポート
- 台風・大雨後の建物点検
- 小修繕対応
- 解体・リフォーム・活用前の建物確認
1件あたりの管理料は、大規模工事ほど大きくないかもしれません。
しかし、管理戸数が増えれば、継続収益の柱になります。
さらに、管理の先には修繕、リフォーム、解体、売却・賃貸前の整備などの相談が生まれます。
大切なのは、空き家管理を単体の小さな仕事として見るのではなく、
月額収益
将来の工事相談
地域からの信頼
この3つを育てる入口として考えることです。
所有者の「最初の一歩」を支える仕事
空き家の所有者は、決して何も考えていないわけではありません。
「いつか何とかしなければ」と思いながら、動けない。
親の家だから手放せない。
きょうだいと意見が合わない。
遠方で見に行けない。
何から始めればよいか分からない。
こうした迷いの中にいる方は少なくありません。
そこで、「まずは建物が傷まないように管理しましょう」と言える存在が必要になります。
空き家管理は、売却や解体を急かす仕事ではありません。
所有者が次の判断をするまで、建物と地域を守る仕事です。
そして、その役割を担えるのは、建物を見る目を持ち、地域に根ざしている建設業者です。
参入に向けて準備したいこと
建設業者が空き家管理に参入する場合、まずは次の点を整理しておくとよいでしょう。
地域の空き家状況を把握する
自治体の空き家対策計画、空き家バンク、地域の人口動態などを確認します。自社の営業エリアにどの程度の空き家があり、どのような相談が発生しそうかを把握することが第一歩です。
サービス範囲を決める
見回りだけを行うのか、換気・通水まで行うのか。小修繕まで対応するのか。建物診断や台風後点検を追加するのか。サービスの範囲を明確にすることで、価格設計もしやすくなります。
報告書の型を作る
空き家管理では、写真付きの報告書が重要です。所有者が遠方にいる場合、報告書そのものが信頼の証になります。建物の状態、気づいた点、今後の注意点を分かりやすく伝える仕組みが必要です。
専門家との連携を作る
空き家管理をしていると、相続、売却、賃貸、解体、登記、片付けなど、さまざまな相談につながります。不動産会社、司法書士、行政書士、税理士、解体業者などとの連携体制を作っておくことで、サービスの幅が広がります。
これからの建設業は「予防管理」を担う時代へ
資材が高くなる時代には、「壊れてから直す」ほど費用負担が大きくなります。
雨漏りを放置すれば、屋根だけでなく天井、壁、床、断熱材まで傷むことがあります。
外壁のひびを放置すれば、補修範囲が広がる可能性があります。
排水や通風の不具合を放置すれば、建物全体の劣化につながることもあります。
だからこそ、これから価値が高まるのは、早めに見て、早めに気づき、早めに手を打つ「予防管理」です。
空き家管理は、建物の健康診断に近い仕事です。
工事を売るのではなく、建物を長持ちさせる。
所有者の不安を減らす。
地域の危険を防ぐ。
その流れの中で、必要な工事を適切なタイミングで受けていく。
これが、これからの建設業に求められる新しい地域密着型ビジネスの形ではないでしょうか。
空き家は、放置されれば地域の課題になります。
しかし、きちんと管理され、適切につながれば、地域の資源にもなります。
建設業が空き家管理に取り組むことは、自社の収益の柱を増やすだけでなく、地域の建物を守る仕事にもつながります。
空き家管理士協会では、こうした地域の担い手を増やすため、空き家管理に関する知識・実務・ネットワークづくりを進めています。
建設業、リフォーム業、不動産業、士業、警備業、介護関連事業など、地域に根ざした事業者の皆さまとともに、これからの空き家管理の仕組みを広げていきたいと考えています。
この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの「空き家ビジネスnote」でも解説しています。
















