国が相続土地を最大93%引きで売る時代。空き家管理士が読む「制度の意味」と事業機会
国が相続土地の「安売り」に踏み切った背景
2023年4月、「相続土地国庫帰属制度」がスタートしました。
これは、相続した土地をどうしても管理できない場合に、一定の条件を満たせば国に引き取ってもらえる仕組みです(制度の詳細は法務省ウェブサイトをご参照ください)。
制度が始まって2年ちょっと。
2026年5月末時点での申請件数は5,545件、国への帰属が認められた土地は2,762件にのぼっています。
ところが、国がこれらを民間に売り出しても、一般競争入札での売却実績はゼロだったそうなんです。
国に移っても、やはり買い手がつかない土地がある。
そこで財務省が打ち出したのが、今回の新方針です。
まず評価額から3割引きでスタートし、それでも買い手がつかなければ3か月ごとに1割ずつ引き下げ、最終的に93%引きまで下げることができる仕組みを検討しています。
また、測量や地下埋設物の調査を行わない「現状有姿売買」(見たままの状態で売ること)を採用することで、売買のスピードを上げようとしています。
保有し続ければ管理コストがかかる。
安くしてでも動かしたい。それが正直なところでしょう。
この制度が示している「より深い問題」
「国が安売りを始めた」という事実よりも、ここで立ち止まって考えたいのは、それが何を意味しているかです。
国ですら売れない土地がある、ということは、個人が「いつか売れるだろう」と思って放置し続けた場合、どうなるでしょうか。
固定資産税はかかり続け、建物は傷み、境界は曖昧になり、草木は伸びる。「なんとかなる」が「どうにもならない」に変わるまで、気づけば10年、20年と経つことがあります。
もう一点、あまり語られない視点として、国が管理して売るプロセスには、放置された土地が無秩序に流通するよりも地域や安全保障の面で秩序が保たれやすい、というメリットもあります。
個人が急いで手放す場合、買い手を選ぶ余裕がないことがあります。
公式な手続きを通ることで、誰にどう渡るかが見えやすくなる側面は、評価してよいと思っています。
隣接業者にとって何が変わるのか
清掃・解体・管理業者
現状有姿で売るとはいえ、最低限の草刈りや片付けの需要は発生します。「売却前の整備」という仕事が、国有地処分のプロセスの中で生まれてくる可能性があります。また、所有者が「国庫帰属制度を使いたい」と動き始めるとき、建物の解体や家財整理が必要になる場面も増えます。早めに「対応できます」という実績と体制を整えておくことが、受注につながります。
士業(司法書士・行政書士・土地家屋調査士など)
相続登記の義務化とこの制度がセットになることで、「制度を使えるかどうか確認したい」「申請前に境界を確定したい」という相談が増えています。制度の要件整理、境界確定、申請サポートなど、関わる余地は広くあります。「うちでは対応できません」で終わらせず、窓口になれる体制があるかどうかが、これからの差になってきます。
不動産業者
売れない土地の流通が増えることで、安く入手して付加価値をつけて動かす仕事の可能性が広がります。ただし現状有姿での購入はリスク評価が問われます。「安いから買う」ではなく「この土地で何ができるか」を描ける目利き力が、これからより重要になります。
地域金融機関
相続土地や空き家を活用した事業の資金ニーズが、じわじわと生まれてきます。単なる融資の窓口ではなく、「この土地をどう活かすか」を一緒に考えるコンサル的なポジションが求められる場面が増えるでしょう。
今、事業者が整理しておくべきこと
まず自社が「相続土地や空き家に関する相談を受けたとき、何ができるか」を一度棚卸しすることをおすすめします。
全部できなくてもかまいません。
できない部分を誰と連携するか、どこにつなぐかを決めておくだけで、相談を受けたときの動きが変わります。
次に、制度そのものを一度調べておくことです。
相続土地国庫帰属制度の申請条件(建物がないこと、境界が明確であることなど)を知っておくと、所有者への説明が格段にしやすくなります。「制度を知っている人に相談したい」という需要は、確実に増えています。
そして、地域ごとに「空き家・相続土地がどこにどれだけあるか」の感覚を持っておくことも有効です。
自治体の空き家バンク情報や固定資産税の課税状況などは、公開情報からある程度把握できます。
地域の実態を知っている事業者は、それだけで信頼の入口になります。
この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの「空き家ビジネスnote」でも解説しています。
















