民泊の廃止率35.9%をどう読むか。空き家ビジネス参入前の現実
訪日客が4,000万人を超え、ホテル不足が続くなか、「空き家を民泊に」という発想が広がっています。
全国に空き家は約900万戸。数字だけ見れば有望な市場に見えます。
ところが民泊の届出は3分の1以上がすでに廃止され、実態は伸びと淘汰が同時に進んでいます。
分かれ目になるのは物件の数ではなく、地域で運営を続けられる体制があるかどうか。
この記事では、空き家管理を起点に民泊市場をどう捉えるかを、不動産・建設・士業・介護・警備など隣接業界の実務者に向けて整理します。
既存の事業に一枚重ねる参入の道筋が見えてくるはずです。
数字の上では有望に見える市場
2025年の訪日外国人旅行者は前年比15.8%増の4,268万人となり、初めて4,000万人を突破しました。
東京・大阪・京都などでは、ホテルの不足だけでなく宿泊料金の高騰も続いています。
一方、空き家は2023年時点で全国に約900万戸、空き家率は13.8%で過去最高です。
このうち賃貸用・売却用・別荘を除いた、使い道の決まっていない空き家だけで385万戸あります。
泊まる場所が足りず、空いている住宅は大量にある。両者をつなげれば解決するように見えます。
民泊市場も実際に動いています。
直近の集計では延べ宿泊者数が約172万人泊、前年同期比で4割以上増え、宿泊者の6割近くを外国人が占めています。
ホテルとは異なる選択肢として、宿泊インフラの一部になりつつあると言えそうです。
伸びの裏で進む「淘汰」
ただし、事業として捉えるなら見落とせない数字があります。
民泊の届出は累計で6万件を超えていますが、そのうち35.9%、3分の1以上がすでに廃止されています。
実際に稼働している届出住宅は4万戸ほど。
始めた事業者のうち3人に1人以上が、途中で撤退している計算になります。
伸びと淘汰が同時に進んでいる。これが市場の現在地です。
撤退の背景にあるもの
撤退の理由は規制強化や稼働率の低迷などさまざまですが、突き詰めると「運営が続かない」に集約されます。
宿泊者の受け入れ、清掃、リネン交換、鍵の管理、設備トラブル対応、多言語案内、近隣対応。
営業開始後の業務は途切れません。
所有者が遠方に住む空き家では、自力での運営は現実的に困難です。
家主が居住しない民泊では、登録を受けた住宅宿泊管理業者への委託も原則として必要になります。
参入前に確かめたい四つの条件
空き家のうち、実際に民泊へ転用できるのは一部に限られます。判断の軸になるのが次の四つです。
一つ目は立地。ホテル不足が深刻なのは大都市や著名な観光地である一方、空き家が多いのは公共交通の少ない地方で、両者はしばしずれています。
二つ目は建物の状態。長期放置された住宅は雨漏りやシロアリなどを抱えていることがあり、改修費が数百万円から一千万円以上に及ぶ場合もあります。
三つ目は法規制。消防設備、避難経路、衛生管理、本人確認、近隣対応が求められ、自治体の条例で営業日数や地域が制限されることもあります。
四つ目は収益性。以上を満たしたうえで投資を回収できる見込みが立つかどうかです。
この四条件を満たす物件だけが、民泊に向くと考えられます。
「管理」を起点にするという発想
そこで提案したいのが、すべての空き家をいきなり改修するのではなく、まず管理しながら可能性を残す方法です。
空き家になった直後から通風・通水・清掃・草刈り・雨漏り点検を続ければ、建物の劣化を抑えられます。
その間に地域の宿泊需要や所有者の意向を見極め、条件が整った物件だけを民泊へ転換する。
民泊に向かなかった物件も、賃貸・売却・地域利用へつなげられます。
「空き家を見つけてから民泊にする」のではなく、「管理されている空き家の中から、民泊に向くものを選ぶ」。
この順番が、継続する事業と撤退する事業を分ける可能性があります。
どの業界にも入り口がある
この考え方に立つと、参入の余地は幅広い業界に開かれます。
管理を担う事業者、改修を手がける建設・リフォーム、権利関係を整える士業、運営を受託する事業者、清掃や警備、所有者の生活状況に接する介護や地域金融、地域の受け皿づくりに関わる自治体。
「運営する人が足りない」という現状は、裏を返せば新たな仕事の余地でもあります。
既存の事業に「空き家の管理と見極め」を一枚重ねる形で関われる業界は、少なくありません。
数ではなく体制で捉える
空き家民泊は、900万戸を一気に宿泊施設へ変える切り札ではありません。
しかし、ホテル建設だけでは対応しにくい季節変動やイベント需要、地方の小規模需要を受け止める分散型の宿泊インフラにはなり得ます。
成功の条件は空き家の数ではなく、泊まりたい場所にあるか、安全に改修できるか、地域で管理できる人がいるか、近隣の理解が得られるか、ホテルと違う価値があるか、需要が落ちても維持できるか。
この六つを満たす物件を選び、管理と運営を支える仕組みをつくることです。
この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの「空き家ビジネスnote」でも解説しています。
















