課税される家、されない家。境界線を知ることが空き家ビジネスの第一歩になる
「空き家ビジネスに興味はあるけれど、どこから入ればいいのか分からない」
こうした声を、協会にはよくいただきます。
売買なのか、活用なのか、管理なのか。どれも正しそうで、どれも決め手に欠ける。そんな迷いを抱えたまま、様子を見ている方が少なくありません。
その状況が、いま少し動きはじめています。
寝屋川市で、空き家に対する新たな課税の仕組みが導入されようとしているからです。
そして、ここに参入の手がかりがあります。
空き家税で注目すべきは税率ではなく、課税される家とされない家の境界線です。
この線がどこに引かれるかによって、どの業種にどんな需要が生まれるかが決まってきます。
住宅を5段階に分けて、市場の地図を描いてみます。
空き家税で本当に見るべきは、税率ではありません
寝屋川市で、空き家に税をかける仕組みが動き出しました。
京都市に続く動きであり、今後ほかの自治体にも同様の議論が広がる可能性があります。
こうしたニュースが出ると、話題は税率に集まりがちです。何パーセントなのか、いくらの負担になるのか。
ただ、事業者の立場で見るなら、注目すべきはそこではありません。
どの家が課税され、どの家が課税されないのか。
この境界線が、そのまま市場の輪郭になります。
「空き家」という言葉は、意外と曖昧です
空家等対策特別措置法では、空き家を「居住その他の使用がなされていないことが常態となっている建築物と、その敷地」と定義しています。
国の基本指針では、常態の目安としておおむね年間を通じて使用実績がないことが示されています。
ただし、実務上は一つの情報だけで判断されるものではありません。
人の出入り、電気・ガス・水道の使用状況、住民票、登記情報、郵便物の状況、建物の管理状況、所有者の説明、売却や賃貸の活動状況。こうした複数の材料を組み合わせた総合判断になります。
つまり「住民票がないから空き家」と機械的に決まるわけではない、ということです。
ここを正確に理解しているかどうかが、所有者との会話の入り口で効いてきます。
住宅を5段階に分けると、市場が見えてきます
協会では、空き家をひとくくりにせず、次の5段階で捉えることを提案しています。
A:居住・使用住宅
人が住んでいる、あるいは店舗や事務所として使われている住宅です。
B:一時不在住宅
転勤、入院、施設入所、家族の介護といった理由で、一時的に離れている住宅です。戻る可能性が残っていたり、家族が今後の方針を検討中であったりします。
C:活用準備住宅
売却の媒介契約を結んで広告が出ている。解体の見積もりを取っている。リフォームの申請が進んでいる。相続の登記や遺産分割を進めている。次に向かって具体的に動いている住宅です。
D:管理空き家
いまは使われていないものの、定期的に巡回・換気・通水・清掃・草刈りが行われ、破損があれば修繕され、緊急時の連絡先も明確になっている住宅です。
E:放置空き家
使われておらず、売却や賃貸の行動もなく、管理も行われていない住宅です。
空き家税が本来ねらうべき対象は、Eです。
B・C・Dも人は住んでいません。しかし、放置はされていない。「無居住」と「放置」は、まったく別の状態です。
空き家が問題なのではなく、放置が問題なのです。
参入の勝ち筋は「証拠をつくる業務」にあります
ここからが、事業者にとっての本題です。
空き家税が広がると、所有者は自分の家をEから動かそうとします。Eにとどまれば課税されるからです。
では、どこへ動かすのか。B・C・Dのいずれかです。
そして重要なのは、Eから抜け出すには「行動の証拠」が必要になるという点です。
「いつか売るつもり」「そのうち直すつもり」といった意思だけでは、除外の根拠になりにくいと考えられます。必要なのは、動いた跡が残っていることです。
各段階に生まれうる業務需要
Cへ動かすために必要になるもの
不動産会社との媒介契約、解体業者の見積もり、リフォーム会社への相談、司法書士による相続登記。出口に向けた具体的な手続きが、証拠そのものになります。
Dへ動かすために必要になるもの
定期的な巡回と、その記録です。誰がいつ行き、何をしたのか。写真と報告書が要ります。この業務は空き家管理の専門会社だけのものではありません。清掃、警備、造園、地域の工務店。すでに現場に足を運ぶ体制を持つ業種であれば、参入の余地があります。
Bにとどまるために必要になるもの
施設入所の書類、転勤の辞令、入院の記録。これらを整理し、行政に示す役割が生じます。介護事業者やケアマネジャーは、この場面に最も近い位置にいます。
つまり、空き家税は**「証拠をつくる業務」の需要**を生みます。
これは従来の空き家ビジネス、つまり「売る・貸す・直す」という出口の話とは性格が異なります。その手前にある、「動いていることを示す」という業務です。
地味に見えるかもしれません。しかし課税という期限がある以上、動機ははっきりしています。
需要が眠っているのは、所有者が動けない理由の中です
ただし、ここには前提があります。所有者が動くことです。
現実には、動かない方が少なくありません。理由は、大きく三つに整理できます。
判断する人が決まっていない。
兄弟が複数いて、誰も「自分が決める」と言い出せない。悪気はなく、互いに遠慮している。そのまま年月が過ぎていきます。
気持ちの区切りがついていない。
親が施設にいる。まだ生きている。実家を手放すことが、親の人生に区切りをつけるように感じられてしまう。
何から手をつければいいか分からない。
家財が残り、登記も昔のまま。誰に相談すればよいかも分からず、考えないようにしてしまう。
この三つは、税だけでは解決しません。
しかし事業者の視点で見ると、この三つがそのまま需要の断層です。
判断者が決まらない家には、第三者が入って整理する役割が要ります。気持ちの区切りがつかない家には、売らずに済む選択肢――つまりDの「管理」――が要ります。何から手をつければよいか分からない家には、最初の一歩を案内する人が要ります。
需要がないのではありません。需要が言葉になっていないだけです。
そこを言葉にできた事業者から、仕事が始まります。
所有者に正確に説明できることが、信頼になります
参入を考える方に、ぜひ押さえていただきたい点があります。
「空き家にすると固定資産税が6倍になる」という説明が、しばしば流通しています。
これは正確ではありません。
住宅用地には固定資産税を軽減する特例があります。この特例が外れると負担は上がります。ただし、人が住んでいないという事実だけで外れるものではありません。
管理不全空家や特定空家として、行政から勧告を受けた場合に、特例の適用外となる可能性が生じます。管理がされず、周囲への影響が懸念され、行政指導後も改善されない。そうした段階を経た先の話です。
空き家税と、固定資産税の特例解除は、別の制度です。前者は「使われず、動かされていない家」、後者は「管理されず、危険な家」を対象としており、目的が異なります。
ここを混同した説明は、所有者を必要以上に不安にさせます。そして不安になった所有者は、動くのではなく固まります。
正しく説明できることが、そのまま参入の武器になります。
なお、個別の課税判断については自治体や税務の専門家にご確認ください。ここでは制度の枠組みを整理するにとどめます。
都市と地方で、参入戦略は変わります
寝屋川市のような都市部では、住宅需要がある一方で空き家が市場に出てこないことが課題です。
そのため税は「市場に出すための仕組み」として設計されやすくなります。この地域では、C(活用準備)に関わる業務、売買仲介、解体、リフォームの需要が伸びる可能性があります。
一方、人口減少が進む地域では事情が異なります。売りに出しても買い手が見つからない住宅が少なくありません。
ここに同じ制度を持ち込めば、売りたくても売れない所有者に負担だけがかかることになりかねません。
そうした地域で必要になるのは、市場に出すための税ではなく、放置を防ぐ仕組みです。つまり、D(管理空き家)の領域です。
都市部はCが主戦場、地方はDが主戦場。
これは協会としての確定的な見解ではなく、現時点でのひとつの見立てです。ただ、参入エリアを検討する際の補助線にはなるはずです。
Dの扱いには、まだ議論の余地があります
正直に記しておきます。
この5段階で最も判断が難しいのは、D(管理空き家)です。
管理されているから課税しない、という整理は一見きれいです。
しかし、それでは「管理さえしておけば、いつまでも寝かせておける」という運用にもなりかねません。
住宅需要が逼迫する都市部では、Dにも一定の負担を求める設計はあり得ます。逆に、流通の見込みが薄い地域では、Dはむしろ守るべき状態であり、そこへ到達してもらうことがゴールになります。
Dをどう扱うかは、自治体の政策目的によって変わってきます。
協会は空き家管理を軸とする団体ですから、「管理していれば免除」と言いたい立場です。
ただ、それを結論として先に置くのはフェアではないと考えています。ここは今後の議論に開いておきたい論点です。
参入検討者が、いま準備できること
自社の事業が、A〜Eのどの段階に接続できるかを書き出す。
すでに現場に足を運ぶ体制があるなら、Dの領域に手が届きます。書類や手続きに強みがあるなら、B・Cの証拠づくりが業務になります。
所有者に正確な説明ができる状態をつくる。
空き家税と固定資産税特例の違い、除外の考え方。ここを説明できるかどうかで、相談の入り口に立てるかが決まります。
単独ではなく、連携の形を考える。
巡回する事業者、書類を整える士業、出口を担う不動産会社。この三者が揃って、はじめて所有者は動けます。自社の弱い部分をどこと組んで補うか。ここが実務上の要になります。
空き家は、負の遺産ではありません。適正に管理され、地域のニーズに合った使い方がされれば、地域の宝になりうる資産です。
空き家税の時代に求められているのは、空いている家を探すことではないと考えています。管理も活用もされないまま社会から切り離されてしまった家を見つけ、所有者が動き出せる仕組みをつくること。
そこに、事業としての余地があります。
この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの「空き家ビジネスnote」でも解説しています。
















