広がる空き家課税と、事業者が押さえておきたい「都市と地方の違い」
広がる空き家課税と、事業者が知っておきたい前提
空き家への独自課税が、少しずつ現実のものになっています。
よく知られているのは京都市の「非居住住宅利活用促進税」ですが、これは市街化区域が対象です。
そこへ2026年7月、寝屋川市が市内全域を対象とした「空き家流通促進税」の条例を成立させました。
全域対象は全国初で、実際の課税は2029年度からを目指すとされています。
こうした動きを見て、「今後ほかの自治体にも波及するのでは」と考える事業者は多いはずです。
その見立て自体は、おそらく大きく外れていません。ただ、事業者として押さえておきたいのは、波及するかどうかよりも、「どんなタイプの税が、どんな地域に向いているか」という点です。
京都市型と寝屋川市型、2つの空き家税の狙い
京都市の非居住住宅利活用促進税は、簡単にいえば「人が住んでいない住宅に追加で課税する」制度です。
対象は危険な空き家に限らず、別荘やセカンドハウスを含む「生活の本拠として使われていない住宅」まで広く含みます。
ここでいう生活の本拠とは、住民票の場所ではなく、実際にそこを生活の中心として使っているかどうかで判断される考え方とされています。狙いは、市場に流通していない住宅を、居住や活用へ戻すことにあります。
「居住に戻す税」と「市場に戻す税」
寝屋川市の空き家流通促進税は、少し角度が違います。対象は賃貸や売却の予定がない空き家で、売る・貸す・住むといった形で住宅市場に戻すことを促す狙いがあると説明されています。
歳入確保よりも所有者の行動変容が目的だとされている点が特徴です。
海外に目を向けると、京都市の発想はカナダ・バンクーバーの空き家税に、寝屋川市の発想はフランスの空室課税に近いとおもいます。
バンクーバーは空いた家を長期賃貸へ戻すことを、フランスは空室が長引くほど負担を重くすることで流通を促すことを狙っています。
呼び方は違っても、いずれも「この地域には住宅需要がある」という前提の上に成り立っています。
地方には「市場に出しても動かない家」がある
ここが、事業者にとって最も重要な論点です。
都市部の課税が機能するのは、住宅需要があるからです。
売れば買い手がいて、貸せば借り手がいる。だからこそ、課税による後押しが行動につながります。
一方、人口減少地域や中山間地域では事情が異なります。
空き家バンクに登録しても問い合わせがない、不動産会社に相談しても取り扱いを断られる、無償でも引き取り手が見つからない、解体費が土地の評価額を上回る、相続人が遠方にいる、共有名義や相続登記の未了で意思決定できない、接道の問題で再建築できない。
こうした物件が現実に多く存在します。
つまり地方では、市場に出さないから空き家なのではなく、市場に出しても動かないから空き家になっている。
この順番が都市とは逆転しています。
そこへ「売却・賃貸しないなら課税」という制度を持ち込めば、動きたくても動けない所有者に負担だけを課す結果になりかねません。
「施設入所で空いた家」という論点
もう一つ、地方に多いのが、所有者が介護施設へ入所したことで突然無人になった家です。
所有者本人はまだ健在で、家族が勝手に売却することもできない。売る・貸すの判断以前の段階にある住宅です。
興味深いことに、海外の制度も、こうした「本人の意思によらない空室」には課税しない設計をとっています。
フランスには市場価格で売買・賃貸に出しても決まらない場合を免除する考え方があり、バンクーバーにも介護施設の書類提出などで免除を受けられる仕組みがあるとされています。
課税で行動を促すタイプの税ですら、動けない事情には配慮している。この点は、日本で地方向けの制度を考えるうえでの重要なヒントになります。
事業者にとっての意味。伸びるのは「管理」の需要
この構造は、事業者にとっての地図でもあります。
都市で「市場に戻す税」が広がれば、恩恵を受けるのは主に売買・賃貸の仲介です。
課税で背中を押された所有者が動けば、そこに取引が生まれます。
しかし地方では、売れない家や施設入所で空いた家が課税で追い詰められても、仲介は簡単には動けません。
売り先も貸し先もないからです。では地方で何の需要が立ち上がるのか。
ぼくは「管理」だと考えています。売れない家がそのまま残る以上、その家を安全な状態に保つ仕事が必要になります。
定期巡回、草刈り、通風・通水、郵便物の整理、破損の点検。放置と管理を分ける、地味だが決定的な作業です。
不動産、建設、士業、介護、警備、清掃、解体、地域金融、自治体。
空き家に接点を持つ業界は多いですが、地方でまず立ち上がるのは、この管理まわりの需要だとぼくは見ています。
課税の広がりを「規制強化」とだけ捉えるのではなく、「管理需要が可視化されるきっかけ」として読むと、事業機会の見え方が変わってきます。
この記事の背景や現場目線の補足は、ぼくの「空き家ビジネスnote」でも解説しています。
















